調査の概要

近年リスキリングへの社会的関心が高まる中で、経営人材育成のあり方についても議論が高まると同時に、コーポレートガバナンス改革の政策論議の中で、日本企業の経営陣のスキルマトリックスや多様性に関する問題点を指摘する声も根強く残っています。私たちは、社長の時間の使い方、経営チームのスキルマトリックス、経営人材育成策の3つの領域でデータを収集し分析を行うことで、経営人材に必要な行動・スキル・育成方法について、実務上有用なエビデンスを提供したいと考えています。

参加協力のメリット

本研究プロジェクトにご協力いただく皆様にとってのメリットは以下の3つです。

1. どういった活動に貴重な社長の時間を使うべきか見直す機会を作ります

Bandiera, Prat, Hansen, and Sadun (2020)らの研究1によると、先進国企業の社長の約5%で事業の特性とCEOの行動スタイルの間にミスマッチが生じており、その解消によって企業業績に大きな改善が生じることが示されています。従って、経営者の皆様が、ご自分の時間の使い方を通じて行動スタイルを客観的に認識することは、企業業績の改善の見地からも重要であると考えます。本プロジェクトでは、参加された社長お一人お一人に、同業他社との比較、欧米企業との比較を行ったカスタムレポートをご提供します。

2. 経営陣のスキルマトリックスが事業戦略と照らし合わせて、適切かどうか見直す機会を作ります

経営チームの職能構成は、各部門に偏在する情報をどう統合し経営判断に役立てていくかという判断を反映しており、事業戦略によって最適な経営チームは異なると考えられます。Guadalupe, Li, and Wulf(2014)らの研究2では、経営チームの職能構成が多角化の性格やIT投資の規模と密接に関連しており、日本で同種の研究を行うことで、CXO制度の必要性や導入効果の評価が出来ると考えます。分析結果は協力企業の皆様にタイムリーにお届けします。

3. 経営人材育成策を立案・評価するフレームワークを提供できる

経営者に求められる行動スタイルや経営陣の最適スキルマトリックスを考えることは、経営人材をどう育成するかという問題と密接にかかわります。現在、経営陣をどう育成し、どう選抜しているかという点は多くの企業でブラックボックス化されており、経営人材育成方法を匿名のまま可視化し、その意味付けを図ることで、多くの企業に自社の経営人材育成方法・選抜方法を見直すきっかけを作れると考えています。

参加企業/社長/CHROにお願いする具体的な協力内容

  1. 典型的な特定の1週間の社長の15分刻みの時間の使い方を、一定の分類方法で、社長秘書にセキュリティの担保されたオンライン調査ツールQualtrics上で設計された画面を通じて入力して頂きます。提供をお願いするのは、以下の3つの種類の情報です。具体的な内容や参加者の人名など詳細な情報を入力頂く必要はありません。
    1. 活動タイプ:ミーティング、メール対応、公的イベント参加、移動、ビジネス食事、等
    2. 活動属性:定例か非定例(特に緊急対応か)の活動か、活動の場所(本社、事業所、社外など)
    3. 参加人数と属性:何名参加したか、社内外の人数とその属性、社内参加者については職能情報など。
  2. 現在の経営チーム(社長に直接レポートする執行役員を含む役員)および10年前の経営チームのプロフィール情報をご提出いただきます。
  3. 経営人材育成策と選抜、その他事業特性に関する質問にQualtrics上で設計された調査票に従ってご回答頂きます。

データセキュリティ面での配慮と対処

  1. 本研究(「経営者の行動、経営メンバー育成施策と企業業績に関する研究」)は、早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の審査・承認を経て早稲田大学総長より承認を得ており、経営者の個人情報保護と匿名性に最大限配慮したデータ管理と成果の公表を行います。
  2. 早稲田大学発行の秘密保持誓約書を参加企業に提出します。また、プロジェクトに参加する本学以外の研究者は、早稲田大学に秘密保持誓約書を提出します。
  3. 社長の行動調査および経営人材育成施策は、高レベルのデータ保護基準を満たすオンライン調査ツールQualtricsを用いて行います。
  4. 収集したデータは、早稲田大学現代政治経済研究所内のインターネットから切り離されたサーバーで保存し、早稲田大学組織経済実証研究所の情報セキュリティガイドライに従って管理を行うため、サイバー攻撃や内部者の不注意によるデータ流出のリスクはほぼありません。
  5. 2036年3月31日まで保管し、その時点で公的機関が運営する研究用アーカイブへの移管など継続的保存への承諾が得られなければ、データ消去・廃棄処分します。
  6. 協力に同意した後であっても、いつでも同意を取り消すことができ、データを除外することができます。ただし、調査への参加取り消しの申し出時点において、すでに論文や報告書などに報告された集計値や推計値を修正することはできません。
  1. Bandiera, O., Prat, A., Hansen, S., & Sadun, R. (2020). CEO behavior and firm performance. Journal of Political Economy. https://doi.org/10.1086/705331 ↩︎
  2. Guadalupe, M., Li, H., & Wulf, J. (2014). Who lives in the C-suite? Organizatoinal structure and the division of labor in top management. Management Science. https://doi.org/10.1287/mnsc.2013.1795 ↩︎