経営陣を対象にした欧米の関連研究で明らかになっていることを要約して解説します。
1.CEOの行動と企業業績
論文:Bandiera, Prat, Hansen, and Sadun. (2020). CEO Behavior and Firm Performance, Journal of Political Economy.
6か国1,114社(ブラジル282社、フランス115社、ドイツ125社、インド356社、イギリス87社、米国149社、うち上場企業は243社)のCEOの1週間のスケジュールを分析したもので、これだけの大規模サーベイは類がありません。
主な結果
- 機械学習(Latent Dirichlet Allocation)を用いて、CEOの行動が、バーバードビジネススクールの著名な経営学者ジョン・コッター (Kotter, 1990)が「マネジャー」「リーダー」と表現した2つのタイプの組み合わせで表現できることを示した(次頁表参照)。
⇒行動タイプの数を2つから3つ以上に増やしても、企業業績に対する説明力は上がらない。
CEOタイプ | 「マネジャー」 | 「リーダー」 |
頻繁に見られる行動 | オペレーション活動への関与 ・現場/工場訪問の頻度が高い ・生産や調達関係の社員との少人数ミーティングが多い ・顧客やサプライヤーとのミーティングが多い | コーディネーターの役割 ・C-level役員とのやり取りが多い ・コミュニケーションや計画にかける時間が多い ・幅広い内部職能マネジャーと外部関係者とのミーティングが多い。 |
Kotter (1990)による解釈 | 経営は、監視と計画実行が役割と定義し、計画を正確かつ効率的に実行できるようなシステムの構築を目指す。 | 経営の役割は、組織的な連携を図ることであり、幅広い構成員とのコミュニケーションに多大な投資を必要する。 |
- 「リーダー」タイプCEOの発現と売上、従業員一人当たり利益、経営の質指標(World Management Survey)の間には強い相関がみられる。例えば、「リーダー」タイプ比率が1標準偏差上がると、売上は7%高く、従業員一人当たり利益は3100ドル大きい傾向がある。また、「リーダー」タイプへの社長交代があると、3-5年後に業績が改善する。
- 企業規模が大きいと、多国籍企業であると、上場企業であると、R&D売上比率が高いと、生産プロセスがより複雑化しスキル偏重であると、「リーダー」タイプCEOの発現比率が高い。
- 上記2で見られる「リーダー」タイプCEOと企業業績の間の相関は、常に「リーダー」タイプが優れていることを意味しない。企業によっては「マネジャー」タイプが最適である場合も存在する。候補者の適性の判定は難しく、「リーダー」タイプCEOが「マネジャー」タイプよりも希少であることから、「マネジャー」タイプの社長がミスマッチで任命される頻度が高い。マッチングモデルを使った推計によると、ミスマッチが生じている割合は、先進国で5.4%、ブラジル・インドでは、35.6%に達する。
欧米あるいは新興国で見られるこうした傾向は、日本でも成り立つのか、生え抜き社長が多く、経営者転職市場が未発達の日本では、特徴の異なるタイプが検出されるかもしれないし、性格の異なるミスマッチが生じうるかもしれない。
2.経営陣の構成の変化、経営の分業化
論文:Guadalupe, Li, and Wulf. (2013). Who Lives in the C-Suite? Organizational Structure and the Division of Labor in Top Management, Management Science.
主な結果
米国では、80年代半ばから、経営陣に占める職能マネジャー(いわゆるCXO)の増大傾向が見られる。こうした経営陣構成の変化は、多角化やICT投資の規模の違いと強く相関しており、情報取得コストやコミュニケーションコストの低下を受け、事業再編や事業間の機動的な資源配分を可能にしていると見られる。
日本でCXO制度が普及しない理由の理解と、米国と同様の「職能集権化」を推進することの競争力への影響を予測する必要がある。
3. 経営者に求めれるスキル
主な結果
ヘッドハンティング会社に蓄積された膨大な経営陣の職務記述書データを機械学習を用いて処理を行い、認知スキル、対人スキル、オペレーション上の経験知識からなる6つのスキルクラスターの重要性の変化を示した。社会的スキルを重視する傾向がここ数十年の間に強まっており、企業規模が大きいほど、IT化が進み社員に求められるITスキル水準が高いほど、その傾向は強い。